フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち

こんにちは、ヘッタ・チャンです。

最近「フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち」を読みました。
「世紀の空売り」の作者マイケル・ルイス氏の著書です。

この本を読むと、金融市場での「金取りゲーム」は、一般人には理解できない想像も出来ない方法で、無知な人からお金を掠めて取っていることがよくわかります。
またウォール街の人間がどれだけ、自分の利益を優先し、他者に対して冷酷かも。
特に、メリルリンチバンクオブアメリカの話は噴飯モノでした。

以下は、私が気になった部分の備忘録です。

46頁 売ろうとした瞬間に買い注文が消える
 ジェレミー・ソロマーがブラッドの人生に入り込んできたのとちょうど同じころ、アメリカ株式市場がおかしな動きを見せるようになった。この最先端のはずの電子商取引企業をRBCが買収する前は、ブラッドのコンピューターはきちんと機能していた。ところが、いきなりうまく動かなくなったのだ。

カーリンのテクノロジーを使うようになるまで、ブラッドはコンピューターに現れる取引画面を信頼していた。その画面にインテルの株式一万株が一株二十二ドルの売り気配で表示されていたら、ブラッドはインテルの株式一万株を一株あたり二十二ドルで購入できた。そのためにはボタンを押すだけでよかった。二〇〇七年の春を迎えたころ、取引画面にインテルの株式一万株が売り気配二十二ドルで表示されているのでブラッドがボタンを押すと、その一万株が消えてしまった。トレーダーとして働いてきた七年の間、デスク上の画面を見れば常に株式市場がわかった。ところが画面に現れる市場は幻になってしまったのだ。


112頁 捕食者の手口
 システムの奥深くに巣食っていたのは、一種のモラルの麻痺の問題だった。内部の人間すべてがシステムからわずかでも利益を得ている限り、たとえシステムがどんなに腐敗した悪辣なものになろうと、内部変化を求める人間は現れない。もっとも“腐敗した”や“悪辣な”といった言葉は、使うだけで真剣な人々を不快にするので、ブラッドは使うのを避けた。ブラッドが投資家と話すときにいちばん気を遣ったのは、陰謀説を振りかざす妄想家がまた現れたと思われないようにすることだったかもしれない。


120頁 メリルリンチは、最悪中の最悪のサブプライムモーゲージ債をせっせと生み出していた銀行の一つだ。メリルリンチが市場の裁きを受けていたら、つまりバンク・オブ・アメリカが彼らを救済しなかったら、メリルリンチの職員は通りへ放り出されていたに違いいない。ところが実際には、買収の直前、自分たちに巨額のボーナスを与えることに決めていた彼らは、結局それをバンク・オブ・アメリカに払わせた。

「とんでもなく不公平だ」とシュウォールは言う。「それにとんでもなく不当だ。九年かけて築きあげたこの銀行でのおれの株はくそにまみれ、そのくそをひり出したやつらが、記録的な額のボーナスをもらっていた。あんなのはろくでもない犯罪だ」。

さらにとんでもないことに、元メリルリンチ組はその後、バンク・オブ・アメリカの株式部門の管理職に就き、職員の大量解雇に取りかかった。対象となった者の多くが、善良で、義理堅い行員だった。「ウォール街は腐ってる、とおれは思い知った」。シュウォールはのちにそう語った。「従業員への誠意なんてどこにもありゃしない」 


198頁 ウォール街の売り込みトークに慣れている投資家たちは、他人を信用しない性分だったし、信用する性分だったとしても、環境によって変えられていた。ウォール街で働く人たちは、嘘をつき、真実を隠し、ひとをごまかすことで大金をもらっているようなものなので、金融市場で信頼感が生まれても、そのあと必ず延々と疑念が続くということになる。


288頁 壊れたスロット・マシン
 テクノロジーウォール街とは、特殊な形で衝突した。テクノロジーは効率を高めるために使われるべきもので、かつてはそのとおりの使われ方をしていた。ところがそれはまた、特殊な種類の市場の非効率を作り出すのにも用いられた。その新たな非効率は、金融市場が簡単に正せるものではない。たとえば大口の買い手が市場へ来てブレント原油の価格を上げたあと、投機家が市場へ跳びこみ、北テキサス原油の価格も上げるのは、健全でよいことだ。トレーダーが原油価格と石油会社の株価との関連を見て、株価を上げるのも健全でよいことだ。抜け目ない超高速トレーダーが、シェブロンエクソンとの株価の問に必ずある、統計的な関連を予想し、関連が乱れたら反応することさえ、健全でよいことだ。

しかし公共の取引所が注文形式やスピードの優位性を導入し、超高速トレーダーがほかの全員を食い物にできるようにするのは、健全でもなければよいことでもない。この種の非効率は、発見して対処した瞬間に消せるものではない。

いわば壊れてコインが出っぱなしのスロット・マシンだ。誰かが何か言うまでその台は出続けるが、プレーヤーが得をしている限り、壊れていると指摘する人間はいないだろう。

 ウォール街がテクノロジーを使ってしてきたことの大半は、ただ金融市場の外の人間が知らない何かを、内部の人間は知っているという状況を作るためだった。かつてどんな投資家にも理解できない、サブプライムモーゲージ債にもとづく債務担保証券をもたらしたのと同じシステムが、今では、どんな投資家にも理解できない注文形式を駆使した、危険な速さで行なわれる、一ペニー単位の取引をもたらしている。

他の多くの人々が理解できるようにものごとを説明しようとするブラッド・カツヤマの態度が、体制の秩序を乱すとみなされるのはそのためだ。ブラッドは自動化された新たな金融システムの核心を攻撃した。それはシステムの不可解さから生みだされている金である。

抜粋ここまで


この本を読んで感じたのは、テクニカル、ファンダンメンタル、システムトレードなどのトレードとは全く違う発想の収益方法、それはシステムの隙間から絶対に負けないトレードを考え出す人たちの強欲と執念の凄さでした。

チャートや統計的に考えるでもなく、企業の財務など全く気にしない注文のシステムルールを徹底的に自分に有利持ってくるための飽くなき挑戦には、逆に敬意すら頂きそうになります。

そして、そのシステムが回り始めたら、自浄作用はまず働きません。誰かが気付かない限り。
東証も本作で紹介されるコロケーションシステムを実施しています。同じ形ではないにしても、一般の投資家が、気付かれないまま搾取されているのではないかと、心配になります。

週末または来週の3連休に、ぜひ「フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち」読んでみてください。